“あえて”の和室
2011年04月08日
魅力的な和を生み出す様々な表情・・・
今回は、プランの中でも特に力を入れたい和室について一緒に考えてみましょう。
和室は、明るさや解放感などを求めるリビングなどとは異なるので、独立した和室の演出を考案する際には
洋室とは切り離した発想が必要です。
風、光、透、微、通、遮、水、景、儚、影。。。など、“和”に精通する様々な要素。
とりわけ和室には、『光と影』 『開と閉』 など相反する2つの要素を取り入れながらバランスを配分を比較した場合、
どちらかというと『影』や『閉』など、陰的要素を大切にする傾向があります。
こちらは、奥様のお母様が丹精込めて手掛けられた水墨画を
ガラスにはめ込み、繊細な配光を施した渾身の和室。
どこか儚げで、奥ゆかしさと哀愁が漂うわび・さびを包含する
空間は、まさに住まい手の理想郷。
同じ家の中でも、ぼんやりとした明りが揺れる 離れ風の余白をつくることで、訪れるゲストに孤高な印象を与え、
ここだけある種の気高さを感じさせるような、身近な生活ゾーンと縁を切った“間”になります。
それは、ゲストとしても、友人宅に泊まるというより、温泉宿に宿泊するという感覚に近く、追憶する思い出としての財産となるはずです。
また、外壁や外まわりに使うような石や塗り壁などを和室に取り入れることでも
格調高い別格の雰囲気をかもし出すことが可能です。
夏でもヒンヤリするような石は、どこか排他的でありながらも
強く人を惹きつけるには充分な存在感がある素材です。
そして、“間接的に季節を感じる空間であること” も、和室のクオリティーを高めます。
しとしとと降る雨季の雨音や、音もなく降り積もる真っ白い雪景色を感じる気配や叙情的な美しさは、心地良さに直結します。
それは、たとえそこに窓に映る庭木がなくても、間接的な季節感を連想させるだけで和室に風情を与えます。
人は、現実を遥かに超える想像力を持っています。
そこを上手に活用しながら、少し大胆に考えてみてはいかがでしょうか。
あえて天井を下げる
あえて開口部を閉じる
あえてうす暗くする
このような“あえて”はもったいないようにも感じますが、
和室の雰囲気をつくり出すための“あえて”の演出の手段。
閉鎖的、圧迫感という一見ネガティブに聞こえる言葉も、和室に当てはめれば、まったく別のイメージをもたらしてくれます。
本当に魅力的な和室は、空間の広さやインパクトに偏った露出的なものではなく、包み隠してもその魅力があふれ出てくるようなもの。
予算をかけた絢爛豪華な和室=完成度が高い和室 とは限りません。
感性に訴える要素を備えていれば、必ず美しいと思わせる空間が生まれます。
そこに、“あえて”のスキやはずしがあれば、創り手の意図とは別に、変幻自在の艶っぽさが加わり、
見る人の瞳に様々な物語が映し出されるでしょう。
完成度の高い和室には、単純に広くて豪華な空間にはない
ふと立ち込める淡い香水のような静かな色気が備わっているはずです。
KENT HOUSE 富 沢